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         松本彫刻          

今、何故徒弟制度か  
徒弟制度における人間性と創造性〜 
獨協経済第61号 1995年3月 紀要原文に 若干の校正をほどこし、読みやすくしました  





   

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C江戸文化の中核−浮世絵

● 枕絵の誕生

…ちょっと早いテンポで話を進めてきまして、皆さんもお疲れになられたかもしれません。
私が話していて疲れるぐらいですからお聞きになっている皆さんはさぞかしお疲れになられていると思います。この江戸文化に関しては、少しのんびりと話を進めていきたいと思います。
江戸文化を正しく理解するためには、少しのんびりしたリズム、現代のリズムよりも穏やかなリズムが必要ではないか。そうでないと重要な部分が飛ばされてしまうという気がします。
何十年か前になりますが、江戸時代、慶応年間に生まれたおばあちゃんの話を聞いてアナウンサーが質問します。「昔と今、どちらがよいですか」おばあちゃんが答えて言うには、「昔はようござんしたね、何でも物事が緩やかで、今はせわしなくていけません。昔はようござんしたね。おじいちゃんも若かったし元気だったし…」ということで、当然だろうと思います。
このおばあちゃんは江戸から明治、大正時代に生きた人ですが、江戸時代はもう少しゆっくりとしたリズムで物事が動いていたわけですから、現代人である我々が江戸文化を考える場合には、そのリズムをもう少しのんびりと合わせていかなければならない。むしろ創造性ということを中心に考えてみたときには、余りせかせかした所の中では創造性は生まれてこないということも現実です。
要するに人間的なリズムが一番よろしい、創造性にとって一番いい環境です。
そういう観点から、そもそも枕絵はどのようなものなのか。どういうふうに生まれてきたのか。余り人が言わないことですが、そういう部分からのんびり話をしていったらいいと思います。
江戸の市民社会において一番重要な行事というのは、恐らくお正月ではなかったろうかと思います。お祭りもありますが、神社によってお祭りの日がずれていますので、年間を通じて最大の行事はお正月と考えていいでしょう。
元日の朝、つまり元旦に、初日の出をおがんで、初詣をする。そういう形で新年を迎え、帰ってきておとそを祝って食事をしてぐっすり休む。この一月一日の夜から二日の朝にかけて見る夢を初夢と呼んでおります。これがめでたい夢ですと、その一年は非常に幸先がいい、と考えました。
これを迷信あるいは非論理的というよりも、豊かな余裕のある考え方というふうにとらえたほうが自然ではないかと思います。
それがさらに進みまして、よい初夢が見たいものだ。どうすればめでたい初夢が見られるだろうかと考えました。これもまた迷信とか非合理であるというよりも、しゃれた余裕から生まれてくる。
そして枕の下にめでたい図柄を描いた絵、錦絵ですが、それをはさみ込んで寝るといい初夢が見られるだろうと考えました。
初めのうちは裕福な文人の間で、松竹梅、鶴亀、七福神、宝船、そういうめでたい図柄の錦絵をお正月の配り物として配り合う習慣が生まれます。
今でも年賀のタオル、名入りタオルを配りあう習慣が残っておりますが、そのなごりであると思います。
そういう中で、同じ図柄を毎年配るのはダサイというんですか、趣向を変えていく。いい物をもらった時には、「こいつに負けては大変だから来年は考えてみよう」という遊びの世界ですが、その中で枕絵が生まれました。

                                  



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