有限会社 松本彫刻
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         松本彫刻          

今、何故徒弟制度か  
徒弟制度における人間性と創造性〜 
獨協経済第61号 1995年3月 紀要原文に 若干の校正をほどこし、読みやすくしました  




   

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● 模型(モデル)・木型が工業製品の優劣に大きな影響を与える

ドイツのマイスター制度は、中世以来の長い伝統の中で徒弟制度を引き継いで、それを今の社会に適応させるべく法制化した制度、主体性は同業組合が持っている、これが非常にうまく作動しておりまして、大企業が新しい製品を開発するときに ― マイスターとは親方のことですが ― 親方の意見を十分に聞き、その技量を取り入れて新製品を開発していく。したがって、ドイツの工業製品は性能が優秀で国際競争力が強い、これはしばしば指摘されるところです。
我が国における工業製品のつくり方、これも実は全く同じことが言えます。これは余り人が口にしない部分ですが、むしろ私の感じではドイツ以上ではないかと思います。
なぜかと言うと、我が国の経済構造が二重構造、三重構造という形で外注企業、下請企業、またその下請企業という形で任されている。この任されている外注先の社長さん ― 社長とか工場長とか名前は立派ですが、内容は徒弟制度の中で磨き上げられた名工、名人、職人さん、たちが実際にこの分野を受け持っているわけです。
実はこの分野が木彫業に似ている。ここでは木型屋さんという職業になりますが、この木型屋さんがひとり親方がふえ、また後継者に悩んでいる、大企業と中小・零細企業との力関係ということもありまして、なかなか後継者を養成するだけの予算を出してくださらない。そのために後継者が育ってこないということになります。ここに来てバブルが崩壊する、企業側で企画するものがうず高くデスクの上に積み上がっているんですが、実際に製品化されないということで、木型業界の受注量が半減している、そういうことで廃業を余儀なくされるということにもなります。

我が国の国際競争力が強い原因がさまざまに論じられておりますが、この分野が崩壊しますと重要な部分、根幹部分が崩れる。これは近い将来にわたる我が国の国際競争力に重要な影響を与えると危惧されます。
具体的にどういうことかというと、まず大企業で一つの製品企画が行われる。それによって図面が上がってまいりますが、この図面をもとに立体化・造形化される。どういう製品ができるのかという模型、モデルというものが製作されます。このモデルをつくるのが木型屋さんの仕事ですが、このモデルをもとに各種の検討が加えられます。
製造部門の責任者、これをどういうふうに量産ラインに乗せるか。また販売部門の責任者、これが最大の発言権を持っておりますが、売れるか売れないか、またカタログのような宣伝の責任者、デザイナー、コストを計算する人たち、これらが一堂に会して、このモデルをもとにさまざまなチェックが行われます。そして修正箇所が上がってきまして、それをもとにいよいよ木型がこしらえられます。
木型は、基本的には木でつくりますが、そのかわりとしてABSというプラスチックを使うこともあり、木型屋さんの仕事です。
大企業における大量生産は、初めのオリジナル作品一個を大量にコピーすることなんだと考えたら一番わかりやすい。つまりこの木型の精度が製品の最終的な精度、その商品を持つムードを決定していくわけです。この部分が弱くなることは危険なことだと考え、徒弟制度が崩壊していく過程において、それにかわる何らかの措置がとられなければ、我が国の国際競争力は重要な局面を迎える一つの例です。
     




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