●修復作業 |
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(1) 洗浄. まず本作をぬるま湯につけ、永年の埃を浮き出すように、埃を押し込まず吸いだすように、2回、洗いました。 ついで、中性洗剤を薄めたぬるま湯につけつつ、柔らかいスポンジで丹念に二度、洗いました。汚れはあくまでも浮き出させるよう努めました。最後に、中性洗剤を残さないよう、ぬるま湯で同様に丁寧に洗って、充分に乾燥させました。 (2) 向かって左奥、湾曲した火焔. (上から三番目の火焔) ケヤキ材の反りにより、後方に35mm、湾曲していますが、これには手を付けず、竜の上部を手前に傾斜させました。 欄間は下から見上げる物ですから、本作の鑑賞には好都合と思われます。 加えて下部2箇所の平地は、蛙又として取付いていたときは見えなかった部分ですが、今般は露出せざるを得ない為、これを視覚的に目立たせない役にも立つと思われます。 この平地部分の日焼けは僅かで、白っぽく、竜全体の日焼けとの対比で目立つため、水彩絵具で色合わせをしました。 (3) 両眼. 広大な中国大陸を支配する皇帝は八方に睨みを利かすためでしょう。両眼は一点に焦点を合わせない習性が竜図の決まりとなっていたらしく、狩野派、長谷川等伯派の絵画に見られますが目の角度は異なって彫られております。木部に残る炭を元に、これ以外あり得ない、と考える形「蛇の目」を炭で再現しました。 (4) 左側の鬚(ひげ、向かって右側)の補修. 鬚の付根は本作唯一の欠点で、細すぎます。欠落した鬚の太さは右側の鬚(向かって右側)の太さを参考にし、揃える形で再現しました。鬚は細く、この補強には裏面に目立たないよう合書の手法で強度を確保しております。これは(5)の爪の補修においても同様です。 (5) 欠落した中央下部右腕の爪、及び左側下部、右足の爪、(何れも三本の爪の中央部分の爪)の補修. 何れも向かって左の爪と接合されておりましたが、その接合面積は極めて小さく、折れて当然というほど際どい仕事がなされていました。 再度折れない様、接合面積が大きすぎない様、細心の注意で補強されています。爪の太さは残り2本を参考にして再現しました。 (6) 25個所のトゲの補修. 残る断面を元に、角度、太さを考えて、取付けました。現在の接着剤の強度は強く、(エポキシ樹脂接着剤)取れないだろうと思います。 (7) 表面の割れの補修. 埋木により92か所、補修しました。ケヤキ材が乾燥して生じた割れは、ケヤキ材による埋木が最適です。これには完全を期し、彫刻刀の切り込みによるへこみ以外の個所に行いました。従って、目止め(通常は砥粉で行う、塗装下地)は行っておりません。目止めは木材の通気性を妨げる、という点で感心できないからです。 (8) 全面塗装. 木材は年月が立つと、水分だけでなく樹脂が風化して空気中に飛び去り、脂分を失って縮小します。木材の劣化を防ぐためには、これを補充しなければなりません。 ドイツ製の透明オイルステインは、ドイツの、冷たい豪雪地帯に対応すべく研究が重ねられ、植物性油による、優れた強度と、新たな色彩を加えることのない透明性を持つ優れた塗料で、浸透力が強く、木部に染みこみます。また、この塗料は奥へと染みこみ、木材に塗料の層がないためこれを何回塗っても塗料自体の光沢は生じません。これを3回、充分に染みこませつつ塗装しました。 欄間に本作を取付ける際、裏面に2個の木片を取付けましたが、表面から4mmは完全に脂分を失って、強度が保たれていないことが解りましたが、塗料は4mm以上、しっかり染みこんでおります。 洗浄の結果、白っぽくカサカサに風化した本作が透明オイルステインの塗布により黒ずんだのは、脂分を含んだため、ケヤキ材が日焼けした色が再現されたものであって、着色されて生じたものではありません。 又、光沢の微かなムラは、永年の風によって磨かれて生じた自然のもので、ラッカー塗料、ウレタン塗料によって生じる人為的な光沢ではなく、ケヤキ材が日焼けした自然の光沢です。 数か月の補修作業の後、透明オイルステインを塗った後、永い年月、寺院を守ってきた竜蛙又本来の黒光りした風格が現れる瞬間、その感動こそ文化財修復の醍醐味でもあります。 |
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